私が友人と近場の観光地に行った時のことだった。紅葉を見に足を運んだのだが、平日だったからか道路渋滞もなく快適なドライブだった。そして色付いた木々の中を走る心地良さと言ったらなかった。これを見るために遠方からはるばるやって来る人々の気持ちが理解出来ると言うものだ。私たちは近くの牧場の駐車場に車を停め、デジカメを持って散策して歩く。

牧場の高台に登ると紅葉した景色が眼下に広がり、言葉を失うほどの素晴らしさなのだ。無言で写真を撮る私たちの周囲には、やはりこの景色目当てにやって来た数人のグループがいるだけだった。小さく嘆声が漏れ聞こえてくる。そうだろうと改めて思う。自然の創り上げる力を目の当たりにして、言葉は力を失ってしまうのだ。嘆息の後の沈黙が心地良い。

その時だ、数人のグループが普通の観光客ではないことに気づいたのは。どうやら、この控え目な観光地をPRしようとCMを撮影するつもりらしい。それとも牧場のCMだろうか、ここのところはよく分からない。若い女性の2人連れが、目の前に広がる光景に歓声を上げて高台の縁に駆け寄っていくところを何度も撮影していたのだ。それを見ながら、私たちは小さく呟いていた。「嘘臭い」心を揺さぶられるような景色を目の前にした時、人はあんな反応をするだろうか？

首を傾げてその様子を見ていた男性が、何やら指示を与えて、再び撮影が開始された。今度は2人はわざとらしい声を上げることはない。目の前の光景に吸い寄せられるようにゆっくりと歩いて行く。高台から広がる色の塊を見下ろして2人は目を合わせ、再び景色に目を奪われていた。「こっちの方がいいかな」数人が同意のしるしに頷いた。「では、ここからの景色を撮るとしよう」私たちは目配せをし、駐車場に向けて歩き出した。「正解だね」歩きながら、友人がそう呟いた。