足を骨折した母の検査結果と手術の打合せのために、私と妻は病院を訪れた。ベッドに横たわる母は思ったより元気そうで、少しホッとする。病室に来る前にレントゲン写真は確認していた。「早い方が良いでしょう」手術の前に全身麻酔をかけること、万が一の場合に使用する薬剤などの承諾書など、読んで署名捺印するべき書類を渡される。
「お袋、調子はどうだい?」足を上げたベッドの中から、母が笑いかける。「早くここから出て、家に帰りたい」妻が着替えやパジャマなどを引き出しにしまい込む。「足は痛みませんか?」妻の問いかけにも笑って答える「薬飲んでいるからね」。持参したプリンを食べるというので、更にホッとする。「Fさん、あなたもいかが?」同室のベッドに横になる同年代の女性に母が声をかけたので、その人にもプリンを手渡す。「Fさんは明日手術なの」「眠ってる間に切り刻まれるんだから、知ったこっちゃないわよね」
「誰ですか、物騒なことを言っているのは」病室に入ってきたのはナースだ。妻共々、丁寧に挨拶をする。母の現状には何の問題もないこと、手術前の注意点、術後と自宅でのケアについて詳しい説明を受ける。「ところで、介護認定は受けているんですか?」それで私は今日申請に行ってきたこと、介護用品のショップで車椅子と松葉杖をレンタルしてきたことを説明する。なら安心ですねとナースが微笑み、病室から出て行った。
そこに弟が入ってくる。母が思いのほか元気だったせいか、弟の緊張が緩んでいくのがひと目で分かった。そこで介護認定の手続き、期間のことなど説明する。弟夫婦の家には、お義母さんが同居していたからだ。「介護なんて言われると、本当に年寄りになったみたいで嫌だわねえ」Fさんが言う。「家も申請に行ってるはずだけど」「まあ保険料を払ってきたんだから、1回位使わせてもらいましょうよ」母の言葉に、皆が微笑んだ。