母親が足を骨折して手術し、退院した。これからは回復状況を見ながら少しづつリハビリしていくと言う。「まだ早いですが」と理学療法士は言った。「年齢が年齢なので、急がず負担が少ない方法でやっていきましょう」「普通は松葉杖なんでしょうが」私は迷いながら口にする。「母はしばらく前から、足腰や腕に思うように力を入れることが少し難しくなっていたんです」足を骨折したのも、その辺りに原因があったのだと思う。
「その母に松葉杖は厳しいと思うんです」車椅子では、そのまま本当に歩けなくなってしまいそうで気が進まない。無理に力をかけることなく、適度に歩く力を維持出来る物が望ましい。理学療法士の彼がパンフレットを持ってきた。「歩行補助具には、松葉杖以外にも色々な種類があるんですよ」私の要望に耳を傾けていた彼は、一つの補助具を指して言った。「これは両腕に体重をかけられますし、足への加重を調整することが出来ます。ただ一つの難点は」彼が私の目を見つめながら、ゆっくりと言った。「平らな所でないと、スムーズな歩行が難しいということですね」ああ、それなら問題はない。家は数年前に出来る範囲をバリアフリーにしていたからだ。
歩行器はレンタルしてもらえるし、介護保険を使えるとのことで、早速手続きを済ませた。介護保険を使う場合は、レンタル料金が10分の1になるのだ。万が一の時のことも考えて、車椅子も借りておいた方が良いかもしれない。「使わないと、足の筋肉が落ちてしまいます。痛みがある時はすぐにやめて、でも出来るだけ足を使った方が良いんですよ」私は黙って頷く。体重をかけても良い状態になったら、私や妻がそばについて家でもリハビリしてもらおう。「大丈夫ですよ、先生と私も状態を見ながら少しづつ進めていきますから」そういう彼の言葉が心強かった。