小学生の娘が目を真っ赤にして帰って来た。落ち着いた頃訳を尋ねると、小学校で飼育しているうさぎの1匹が死んでしまったのだという。娘や他のうさぎ飼育係は大泣きだったそうだ。娘の通う小学校でもご多分に漏れず、生徒数が減少している。当初は屋外で飼育していたうさぎも、夏と冬は空き教室を利用して屋内で飼育されていた。飼育係を買って出た生徒たちは本で調べたり、時々訪れるボランティアの獣医さんから指導を受けていたから、飼育ミスではないだろう。
涙声で話す娘によれば、そのうさぎは人間に1番懐いていたうさぎだった。生徒たちが世話のために訪れると、真っ先に寝床から飛び出してきて挨拶するうさぎだったという。娘たちは動かなくなったそのうさぎをタオルでくるみ、ボランティアのドクターが来るまで代わる代わる最期の抱擁をして別れたのだと言う。やって来たドクターは病院に連れて帰って死因を調べてくれるらしい。
いつまでも落ち込んでいる娘たちに、親である私たちも立ち上がることにした。休日を利用して、近くにある動物ランドに行くことにしたのだ。一応は東京ではあるけれど、自然が多く残された素晴らしい環境だった。馬や羊たちの可愛らしい姿に歓声を上げていた娘たちは、園内にあるうさぎカフェの入口で戸惑ったように立ち竦んでいた。そして意を決したように手をつないで入って行ったのだ。
親たちはその様子を見守りながら、「意外と清潔で、臭いもしないわね」などと呟いていた。「こんなうさぎ、初めて見た」などとはしゃぐ彼らに、ホッと安堵するばかりだったのだ。ところがその日のクライマックスは、うさぎとは別のところからやって来た。帰り際、動物ランドの隅にあった納骨堂を子供たちが見つけてしまったのだ。折悪しく、園の前に捨てられていたという仔猫の納骨が行われていた。
生前の小さな毛玉の写真と、陶器に入れられた姿のギャップはどんな風に受け止められたのだろう。子供たちに気づいたスタッフが、ゆっくりと説明をしてくれた。この仔猫は生後数日の間に、この園の前に捨てられていた猫です。私たちは一生懸命に世話をしましたが、助けることが出来ませんでした。でもこの仔猫は生きようと頑張ったし、お腹を空かせながら死んだのでもありません。最後は私たちの掌の中で息を引き取ってしまいましたが、この仔猫が頑張って生きたことを私たちは知っているし、忘れることはないでしょう。この子の名前は「かえで」と言います。「かえで」が空に還って幸せでいてくれるように、一緒にお祈りしてくれますか?子供たちは厳粛な面持ちで返事をし、小さな掌を合わせて黙祷した。